「淡交」紅雲 徒然コラム特別編
6 新しいバウハウス
それからひと月の間、私の足がバウハウスに向くことはなかった。あのガラス扉を開けても、「やあ」という声は聞こえてこない。 おもむろに長椅子から体を起こす岩上さんがもうそこにはいないという事実が足を重くしていた。それでも、月命日が間近に迫った10月のある日、奮い立って事務所を訪ねた。
長椅子には、岩上さんの代わりに娘の麻緒さんが座っていて、どなたかと話をしていた。
このひと月、まだ、とうてい悲しみの癒えない中で奔走していたであろう彼女から話を聞いた。
新社長に清水さんが就任し、総務・経理担当の麻緒さん、設計・施工担当の桃子さん姉妹とともに仕事を続けること。新たな仕事の依頼がすでに来ていること。 そして、岩上さんのこと…。それは岩上さんが何よりも願っていたことだ。 岩上さんの優れたDNAを受け継いだ二人と、彼がもっとも信頼していた清水さんとがタッグを組んで、彼がおよそ20年の間に培った、 がっしりとした基礎の上に三人の新しい、若い感覚を注ぎ、バウハウスらしい家造りを続けることが、彼への最上、最高の手向けであるに違いない。
岩上さんのバウハウスは、創業時から変わることなく、自然、風土、町並み、環境に配慮した家造りを実践してきた 地縁、血縁のないこの群馬の地で孤軍奮闘しながら、つくり手のエゴに走らず、住まい手の思いに心を寄せながら、同時に安易な妥協を排し、100棟を優に超える家をこの地に根づかせたのである。
バウハウスは、これからもずっと、地元の、誇るべき、小さな工務店として生きていく。








