03:図書室。
彼は幼い頃から本と名のつくものが好きだった。
物心がつくかつかないかの時分に、
母が繰り返し読んでくれた一冊の童話集。
思えば、それが本遍歴の始まりだった。
童話に漫画や図鑑が混じり、
やがて学校の図書室に並んだ小説が心をとらえ始めた頃
もうひとつ
彼を夢中にさせるものが現れた。
ビーカーとフラスコである。
透明なガラスの中で物質が変化していく不思議な世界。
少年の小宇宙。
いま
彼は化学会社のエンジニアである。
その彼が家を新築することになった。
彼の頭に真っ先に浮かんだのは、
図書室をつくることだった。
書斎ではなくて、図書室。
小さくてもよい。
扉を開ければ学校の東の隅にあったあの部屋のように
宇宙が広がる場所。
今日も彼は
帰宅すると先ず、
2階の図書室へ駆け上がる。